睡眠障害(不眠症 – 入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)の症状、特徴、睡眠薬について
監修医師
各務 康貴
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。
1.はじめに
現代社会では、過密なスケジュールや情報過多によるストレス等、様々な要因から不眠に悩む方が増えています。その結果、体調や仕事、生活に大きな影響を及ぼすこととなり、不眠の改善が求められています。この記事では、不眠の主な症状―入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害―とそれぞれに適した睡眠薬について詳しく解説します。また、睡眠薬の種類と作用原理、各症状に適した睡眠薬とその理由、そして睡眠薬を利用する際の注意点についても詳しく説明します。この情報が、皆様の心地よい眠りと健やかな生活にお役立ていただければ幸いです。
2.不眠とは
(1)不眠の定義
不眠とは、一般的に「十分な時間や機会があるにも関わらず上質な睡眠を得られず、日中の機能や活動に影響を及ぼす状態」を指します。世界保健機関(WHO)の定義によれば、具体的に以下のような条件を満たす状態が不眠とされます。
【表1: 不眠症の定義に関するWHOの基準】
条件 | 内容 |
---|---|
睡眠困難 | 睡眠に入るのに30分以上かかる、週に最低3回 |
睡眠維持困難 | 夜中に目が覚めてしまい、再度眠るのに30分以上かかる、週に最低3回 |
早朝覚醒 | 早朝に目が覚めてしまい、再度眠ることができない、週に最低3回 |
日中の影響 | 睡眠不足により日中の仕事や学校等の活動に支障が出る |
これらの条件は一部ではありますが、その他にも様々な症状があります。不眠は単なる「眠れない」症状だけでなく、日常生活に悪影響を及ぼす深刻な問題であると理解してください。
(2)不眠の主な症状
不眠の主な症状は、以下の4つに大別されます。
- 入眠障害 就寝してから30分以上経っても眠れない状況を言います。ベッドに入ってからの意識が途切れず、時間が経つのが感じられる状態です。
- 中途覚醒 一度は寝入ったものの、夜間に何度も目が覚めてしまう症状を指します。一晩で数回から十回以上目が覚めることもあります。
- 早朝覚醒 朝方に目が覚めてしまい、その後二度寝ができない状態を指します。特に4時から5時前に目覚めることが多いです。
- 熟眠障害 睡眠時間は十分でも、熟睡感が得られず、日中に眠気を感じる症状です。
これらの症状は個々に現れることもありますが、同時に複数の症状が現れることもあります。
3.不眠の症状別の特徴と影響
(1)入眠障害
入眠障害は、「寝つきが悪い」「寝る前に不安感がある」などと表現される不眠症の一種です。主に寝る前のリラックスできない状態や、過度なストレス、日中の過度な眠気などが原因とされています。
特に、「夜更かし」や「不規則な生活」、「カフェインの摂取」などが影響していることもあります。以下に、主な原因とその例を示します。
原因 | 例 |
---|---|
ストレス | 仕事や人間関係などの問題 |
ライフスタイル | 不規則な睡眠時間、夜更かし、カフェインの摂取 |
健康状態 | 病気や薬の副作用、適切な運動不足 |
これらの原因を理解し、生活習慣の見直しやリラクゼーション法を試みることで改善することが期待できます。しかし、自己判断での対策は避け、必ず医師や専門家へ相談しましょう。
(2)中途覚醒
中途覚醒とは、寝入った後に一度以上覚醒する状態を指します。一晩に何度も目が覚め、その都度、再度眠りにつくのが困難となることもあります。
中途覚醒の原因は様々ですが、ストレスや生活習慣の乱れ、物理的な不快感(例えば、腹痛や頻尿)、さらには睡眠時無呼吸症候群などの医療的な問題も関与します。
また、中途覚醒が頻繁に起きると、寝た感じがしない、昼間の睡魔、集中力低下などの問題を引き起こします。そのため、適切な治療を受けることで生活の質を向上させることが可能となります。
(3)早朝覚醒
早朝覚醒は、朝方に目覚めてしまい、二度寝することが困難な状態を指します。特に年配の方や、ストレスを抱えている方々に多く見られます。早朝覚醒が続くと、日頃の生活に支障をきたすだけでなく、体調不良やうつ症状を引き起こす可能性もあります。
早朝覚醒の主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
原因 | 詳細 |
---|---|
年齢 | 年齢とともに生体リズムが変化し、早朝覚醒が引き起こされることがあります |
ストレス | 心理的ストレスにより、睡眠リズムが乱れることがあります |
生活習慣 | 不規則な生活習慣や過度なアルコール摂取なども早朝覚醒の原因となります |
このような状況においては、適切な睡眠薬の選択が重要となります。具体的な対策や睡眠薬の
(4)熟眠障害
熟眠障害は、睡眠中でも深い睡眠が取れず、目覚めてしまうという状態を指します。これにより、睡眠時間は確保できているように見えても、実際には身体や心が十分に休息をとっていない状態となります。その結果、日中の眠気や集中力の低下、免疫力の低下などの症状が現れることがあります。
【熟眠障害の主な症状】
- 日中の眠気
- 集中力の低下
- 免疫力の低下
熟眠障害に対する治療としては、自己管理法やカウンセリング、リラクゼーション法などがありますが、それらに反応しない場合には、医師の指導のもとで睡眠薬を使用することも考えられます。ただし、どの睡眠薬も一律に熟眠障害に効果的とは限らないため、適切な薬剤選択が重要となります。
4.睡眠薬の種類と作用原理
(1)ベンゾジアゼピン系薬
ベンゾジアゼピン系薬は、不眠治療に広く用いられる薬物の一つです。これらの薬は、脳内の神経伝達物質であるGABAの働きを強め、神経細胞の興奮を鎮める作用があります。
主な薬剤としては、「ジアゼパム」や「アルプラゾラム」などがあります。
特徴的な効果としては、以下のようなものがあります。
-筋肉の緊張を和らげる -不安を抑える
(2)非ベンゾジアゼピン系薬
非ベンゾジアゼピン系薬は睡眠薬の一種で、ラモットリギン、ゾピクロンといったものがあります。特徴としては、ベンゾジアゼピン系薬と違い、依存性が少ないとされています。
【表】
薬名 | 効果 |
---|---|
ラモットリギン | 睡眠の質を改善する |
ゾピクロン | 入眠を促進する |
これらの薬はGABA(ガンマ・アミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを強化し、神経細胞の興奮を抑えることで、睡眠を導きます。ただし、副作用として、次の日の日中に眠気を感じたり、めまいやふらつきを感じることがあります。そのため、使用する際は医師の指示に従うよう注意が必要です。
(3)メラトニン作用薬
メラトニン作用薬は、体内で自然に生成されるホルモン「メラトニン」の働きを模倣した薬です。メラトニンは、私たちの生体リズムを管理する上で重要な役割を果たし、主に夜間に分泌が高まることで睡眠を促します。
メラトニン作用薬の特徴 | 説明 |
---|---|
効果発現の速さ | 約15〜30分 |
作用時間 | 約3〜6時間 |
主な副作用 | 頭痛、吐き気、眠気 |
この薬は特に「入眠障害」に有効で、睡眠の開始をスムーズにするために用いられます。また、時差ボケの改善にも効果があるとされています。
(4)抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は、その名の通りヒスタミンという物質の作用を阻害する薬剤です。ヒスタミンは、私たちが覚醒状態を保つために重要な役割を果たしています。したがって、その作用を阻害すれば、眠気を誘発することが可能となります。
とは言え、抗ヒスタミン薬の中には、アレルギーの治療にも使われるものが存在します。これらは眠気を引き起こす副作用を持つため、睡眠導入効果があるとされています。例えば、「ドキシラミン」や「ジフェンヒドラミン」などが含まれます。
ただし、頻繁に使用すると耐性ができやすく、効果が薄れる可能性もあるため注意が必要です。また、口渇や便秘などの副作用が生じることもあります。
(5)オレキシン受容体拮抗薬
オレキシン受容体拮抗薬は、不眠治療薬として新たに注目を集めています。オレキシンとは、脳内に存在し、覚醒を促進する物質のことです。
オレキシン受容体拮抗薬は、このオレキシンの働きを抑制することで、自然な眠気を引き起こします。一般的な睡眠薬とは異なり、中毒性や依存性が低いとされるのが特徴です。
以下に、主なオレキシン受容体拮抗薬とその特性を表にまとめます。
薬剤名 | 特性 |
---|---|
デエビゴ | 自然な睡眠を促す効果があります。また、翌日の日中の眠気やふらつきなどの副作用が比較的少ないとされています。 |
このように、オレキシン受容体拮抗薬は、その特性から長期的な不眠治療において有用であると考えられます。但し、全ての人に適しているわけではありませんので、使用前には必ず医者と相談することを推奨します。
(6)その他の薬
その他の睡眠薬としては、抗うつ薬や抗精神病薬、などが使われることがあります。それぞれ異なる働きを持ち、不眠治療に役立つことがあります。
例えば、抗うつ薬はセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、これらの神経伝達物質の濃度を上げることで、心地よい眠りを促します。
また、抗精神病薬はドーパミン受容体を阻害し、興奮状態を抑える作用があります。これにより、夜間の過剰な覚醒を抑制し、睡眠を改善します。
これらの薬は全て医師の指導のもとで使用するべきであり、自己判断での服用は避けるべきです。
【表:その他の睡眠薬】
種類 | 作用 |
---|---|
抗うつ薬 | セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害 |
抗精神病薬 | ドーパミン受容体を阻害 |
5.各症状に適した睡眠薬とその理由
睡眠薬の説明をする前に、前提として補足しておきたいのは
全ての薬は医師の適切な判断のもと処方され、安全にご利用いただくためには患者様のご協力が必要となります。
また、睡眠薬を始めるということは、どう終えていくのか?といった視点も必ず必要となります。
(1)入眠障害に適した睡眠薬
入眠障害は、寝つくのが難しい状態を指します。これに適した睡眠薬としては、「非ベンゾジアゼピン系薬」や「メラトニン作用薬」が挙げられます。
非ベンゾジアゼピン系薬は、睡眠の質を落とすことなく、早く眠りにつくことを助けてくれます。一方、メラトニン作用薬は体内時計を調整し、自然な眠りを促します。睡眠のリズムを整えるのに合っています。
以下にその特徴を表で示します。
種類 | 効果 | 注意点 |
---|---|---|
非ベンゾジアゼピン系薬 | 睡眠の質を保ちつつ、早く眠りにつくことを助ける | 長期使用による依存性に注意 |
メラトニン作用薬 | 体内時計を調整し、自然な眠りを促す | 服用時間を正確に守ることが重要 |
これらの薬は、医師の指導のもと適切に使用することが求められます。
(2)中途覚醒に適した睡眠薬
中途覚醒に悩む方には、睡眠の維持を助ける睡眠薬が推奨されます。一例として、非ベンゾジアゼピン系薬のゾルピデムやベンゾジアゼピン系薬のフルニトラゼパムがあります。
非ベンゾジアゼピン系薬のゾルピデムは、中途覚醒を防ぐ効果があり、短期間の使用に適しています。一方、ベンゾジアゼピン系薬のフルニトラゼパムは、睡眠を維持する作用が強く、中途覚醒が頻繁な方に有効です。
但し、これらの薬も長期間の使用は避けるべきであり、医師の指導のもと、適切な用量と使用期間をコントロールすることが大切です。
【比較表】
薬の種類 | 特徴 | 適応症状 |
---|---|---|
ゾルピデム(非ベンゾジアゼピン系) | 中途覚醒を防ぐ 短期間使用が適している | 中途覚醒 |
フルニトラゼパム(ベンゾジアゼピン系) | 睡眠を維持する作用が強い 長期間使用は避ける | 中途覚醒が頻繁 |
以上の表からもわかるように、中途覚醒対策の睡眠薬は様々で、自分の症状に合った薬を選ぶことが重要です。
(3)早朝覚醒に適した睡眠薬
早朝覚醒の症状には、長時間作用の睡眠薬がおすすめです。具体的には、ベンゾジアゼピン系薬のフルニトラゼパムや非ベンゾジアゼピン系のエスゾピクロンなどが該当します。
これらの薬は動悸や不安感を抑え、安定した睡眠を維持する効果があるため、朝早く覚醒してしまう問題に対処可能です。しかし、長時間作用の薬は次の日に残る倦怠感(ハングオーバー)を引き起こす可能性もあるため、服用は医師の指導の下、適切な量と時間を守ることが重要です。
【表1. 早朝覚醒に適した睡眠薬の一覧】
睡眠薬 | 種類 | 効果 | 注意点 |
---|---|---|---|
フルニトラゼパム | ベンゾジアゼピン系 | 睡眠の安定化 | 次日の倦怠感に注意 |
エスゾピクロン | 非ベンゾジアゼピン系 | 睡眠の安定化 | 次日の倦怠感に注意 |
(4)熟眠障害に適した睡眠薬
熟眠障害は、一晩中眠っているようで、しかし翌朝になっても疲れが取れず、日中の活動に影響が出るというものです。ここでは、その熟眠障害に適した睡眠薬についてご説明します。
主に推奨されるのは、オレキシン受容体拮抗薬と非ベンゾジアゼピン系薬です。オレキシン受容体拮抗薬は、オレキシンという覚醒を促す物質の働きを抑えることで、眠りを深くする効果があります。一方、非ベンゾジアゼピン系薬も睡眠の質を改善し、翌朝の目覚めを良くする効果をもたらします。
以下の表にそれぞれの薬の特徴をまとめました。
薬の種類 | 特徴 |
---|---|
オレキシン受容体拮抗薬 | 熟睡感を高める、翌朝の目覚めが良い |
非ベンゾジアゼピン系薬 | 睡眠の質を改善、翌朝の目覚めを良くする |
それぞれの薬は効果が異なりますので、医師と相談しながら自身の不眠症状に合ったものを選択しましょう。
6.睡眠薬を利用する際の注意点
利用する際には、以下の点に注意が必要です。
1.医師の指導の下で利用する:自己判断での使用は避け、必ず医師の指導の下で利用しましょう。用量や服薬時間などを適切に管理します。
2.副作用の理解:睡眠薬には、昼間の眠気やふらつきなどの副作用があります。自身の体調と相談しながら、医師とコミュニケーションを取りましょう。
3.長期使用のリスク:依存性や耐性が生じる可能性があるため、長期使用は避けるよう心掛けましょう。
4.生活習慣の見直し:睡眠薬はあくまで一時的な対策であり、基本は生活習慣の改善です。食生活や運動習慣、ストレスマネージメントなどを見直しましょう。
しっかりとこれらを理解し、正しく睡眠薬を活用することで、健やかな睡眠を取り戻すことが可能です。
7.まとめ
本記事では、不眠の症状(入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害)と、それぞれに適した睡眠薬について詳しく見てきました。それぞれの症状に対する理解を深め、適切な睡眠薬を選ぶことは、健康な生活を送るために非常に重要です。
症状 | 適した睡眠薬 |
---|---|
入眠障害 | ベンゾジアゼピン系薬ベルソムラ・デエビゴ(オレキシン受容体拮抗薬) |
中途覚醒 | ロゼレム(メラトニン受容体作動薬)ベルソムラ・デエビゴ(オレキシン受容体拮抗薬) |
早朝覚醒 | メラトニン作用薬 |
熟眠障害 | オレキシン受容体拮抗薬 |
しかし、睡眠薬はあくまでも一時的な対策であり、長期的には生活習慣の見直しやストレスの軽減など、自然な睡眠に近づけるよう努めることが推奨されます。また、睡眠薬は副作用もありますので、使用する際は必ず医師の指示に従ってください。
より詳しい情報として医師向けとはなりますが、睡眠学会が出している。
「睡眠薬の適正な使⽤用と休薬のための診療療ガイドライン」などが参考になります。
https://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf
当サイトの監修医師について
当サイトは、医師資格を有する医師の監修のもと、サイト運営を行なっております。
大分大学医学部医学科卒業。医師として救急医療や在宅医療に従事し、マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。
コメント