いびきは、単純に音がうるさいだけでなく、「睡眠時無呼吸症候群」や「閉塞性睡眠時無呼吸」などの深刻な睡眠障害であることもあります。重症化すると生活に大きな影響を及ぼし、心身の健康を損ねる可能性もあるため、しかるべき治療を受けることが大切です。
いびきと睡眠障害の関連性について、その診断と治療方法について解説します。
監修医師
各務 康貴
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。
いびきと睡眠障害(不眠症)
いびきと睡眠障害の関連性について詳しく見ていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)発症の可能性
いびきと睡眠障害は密接な関連性があります。人は通常、リラックスした状態で深い睡眠を得るために自然と呼吸を行います。しかし、いびきをかく人々は、喉の筋肉のリラクゼーションが過度になるため、呼吸が一時的に停止する「睡眠時無呼吸症候群」を発症するリスクが高まります。
以下にそのメカニズムを簡単な表で示します。
状態 | 説明 |
---|---|
いびき | 喉の筋肉がリラックスし、気道が狭くなることで起こる |
睡眠障害 | 気道が完全に閉じてしまうことで呼吸が一時的に停止し、睡眠が中断される |
したがって、いびきはただの騒音ではなく、潜在的な睡眠障害のサインであり、適切な対策が必要です。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を発症する可能性
いびきは閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)の主要な症状の一つです。OSAは、睡眠中に上気道が狭くなったり閉塞したりすることで、呼吸が一時的に止まる状態を指します。
OSAを発症するリスク因子には以下のようなものがあります。
- 肥満(特に首回りの脂肪蓄積)
- 加齢
- 男性であること
- 鼻中隔湾曲症などの鼻腔の構造的問題
- アルコールや睡眠薬の過度な摂取
OSAの重症度は、1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数(AHI)で判断されます。
AHI値 | 重症度 |
5未満 | 正常 |
5-15 | 軽症 |
15-30 | 中等症 |
30以上 | 重症 |
いびきがひどい場合、OSAの可能性を考慮し、専門医による診断を受けることが重要です。早期発見・早期治療により、心血管疾患などの合併症リスクを軽減できる可能性があります。
いびきが引き起こす可能性のあるその他の睡眠障害
いびきとともに見られる睡眠障害は、他にも「レム行動障害」や「睡眠関連運動障害」など、多種多様です。
下の表に、いびきが引き起こす可能性のある主な睡眠障害を列挙します。
睡眠障害の名前 | 症状 |
---|---|
レム行動障害 | 睡眠中に夢を見ながら動き回る |
睡眠関連運動障害 | 睡眠中に不自然な体の動きをする |
いびきが引き起こす睡眠障害は、その人の生活の質を大きく左右します。問題がある場合は、早期に専門医に相談することをお勧めします。
危険ないびきをかきやすい人の特徴
いびきは多くの人が経験する症状ですが、中には睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの深刻な睡眠障害に繋がる危険性のあるいびきもあります。以下のような特徴を持つ方は、危険ないびきをかきやすい傾向にあります。
- 肥満(特に首回りが太い方)
- 中年以上の男性
- アルコールを多く摂取する習慣がある方
- 喫煙者
- アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの鼻疾患がある方
- 顎が小さい、または後退している方
また、以下の表に示すような症状がある場合は要注意です。
症状 | 危険度 |
大きな音のいびき | 高い |
呼吸が止まる | 非常に高い |
日中の強い眠気 | 高い |
起床時の頭痛 | 中程度 |
夜間の頻尿 | 中程度 |
これらの特徴や症状がある方は、睡眠障害の可能性を考慮し、専門医への相談をお勧めします。早期発見・早期治療が、良質な睡眠と健康の維持に繋がります。
医療機関の受診が必要ないびきの症状
いびきは多くの人が経験する症状ですが、中には医療機関での受診が必要な場合もあります。以下のような症状がある場合は、専門医への相談をおすすめします。
- いびきの音が大きく、隣の部屋まで聞こえる
- 寝ている間に呼吸が止まる(無呼吸)のを家族に指摘される
- 朝起きても疲れが取れず、日中の眠気が強い
- 高血圧や心臓病、糖尿病などの持病がある
また、以下の表に示すような症状がある場合も要注意です。
症状 | 詳細 |
口呼吸 | 鼻づまりなどで口を開けて寝る習慣がある |
肥満 | BMIが25以上ある |
首周りが太い | 男性で43cm以上、女性で38cm以上 |
これらの症状がある場合、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の可能性があります。早期発見・早期治療が重要ですので、気になる症状がある方は躊躇せずに医療機関を受診しましょう。
睡眠障害といびきの診断方法
睡眠障害といびきの正確な診断には、複数の方法が用いられます。主な診断方法は以下の通りです。
診断方法 | 内容 |
医師による問診 | ・症状の詳細や生活習慣について聞き取り ・家族からの情報も重要 |
ポリソムノグラフィ(PSG) | ・一晩中の睡眠状態を総合的に測定 ・脳波、心電図、呼吸状態などを記録 |
その他の検査方法 | 簡易睡眠検査:自宅で行える簡易版PSG 終夜睡眠ポリグラフ検査:入院して行う詳細な検査 血液検査:甲状腺機能や貧血の有無を確認 |
検査名 | 特徴 | 実施場所 |
PSG | 最も詳細な検査 | 医療機関 |
簡易睡眠検査 | 自宅で実施可能 | 自宅 |
終夜睡眠ポリグラフ検査 | より詳細な検査 | 医療機関(入院) |
これらの診断方法を組み合わせることで、睡眠障害といびきの正確な原因究明と適切な治療方針の決定が可能となります。症状が気になる方は、早めに専門医への相談をおすすめします。
医師による問診
いびきの診断は、主に患者の自覚症状や家族からの情報、医師による問診から始まります。特に、強いいびきやいびきと共に呼吸が止まるなどの症状がある場合、睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea)の可能性が考えられます。
ポリソムノグラフィ(PSG)
その後、必要に応じて「ポリソムノグラフィ」(PSG)という睡眠検査を行い、いびきの重度や、それが睡眠障害を引き起こしているかどうかを判断します。PSGは、睡眠中の脳波、心電図、筋肉活動、眼球運動、呼吸パターン、酸素濃度などを一晩中記録し、分析する詳細な検査です。
その他の検査方法
また、日中の眠気の程度を評価する「エプワース睡眠性スコア」や「スリープ・ラテンシー・テスト」も併用されることがあります。これらにより、いびきが日常生活や健康にどの程度影響を及ぼしているかを医師が評価します。
睡眠障害といびきの治療法
睡眠障害の治療には、様々なアプローチがあります。まずは、生活習慣の見直しやストレス管理から始め、それが不十分であれば医薬品の使用も検討されます。
生活習慣の改善
アルコールの摂取量を減らしたり、体重を管理したりすることで、いびきを軽減することが可能です。
体位調整
特に背中を下にして寝ると、いびきが大きくなる傾向があります。そのため、横向きで寝る等、寝る体位を調整することも有効です。
鼻CPAP療法
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)という装置を使い、気道に一定の陽圧を与えていびきを抑制します。
歯科装具療法
歯科装具療法は、いびきや軽度から中等度の閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)の治療に有効な方法です。この治療法では、就寝時に専用の口腔内装置を装着します。
歯科装具の主な種類と特徴は以下の通りです。
歯科装具の種類 | 特徴 |
マンディブラー・アドバンスメント・デバイス(MAD) | ・下顎を前方に引き出し、気道を広げる ・最も一般的な歯科装具 |
舌前方位置保持装置 | 舌を前方に固定し、気道閉塞を防ぐ |
軟口蓋挙上装置 | 軟口蓋を持ち上げ、気道を確保する |
歯科装具療法のメリットは、以下のとおりです。
- 非侵襲的で副作用が少ない
- 持ち運びが容易
- CPAPと比べて静かで快適
ただし、歯科装具の効果は個人差が大きいため、専門医による適切な診断と調整が必要です。また、定期的なフォローアップも重要です。
手術
上咽頭部の組織を取り除く手術も行われます。しかし、リスクもあるため、他の治療法が効果のない場合に限ります。
レーザー治療
レーザー治療は、比較的新しい治療法です。口蓋や舌根部の組織をレーザーを照射することで硬化させ気道の狭窄を改善します。日帰り治療が可能、痛みが少なく麻酔も不要といったメリットもある一方で、複数回の継続的な治療が必要で治療を中止すれば元に戻る、効果には個人差がある、保険適応外などのデメリットがあります。また重症の睡眠時無呼吸症候群には効果がありません。
睡眠障害といびきの治療に関わる診療科
睡眠障害の診断と治療には、専門的な知識を持つ診療科が協力して治療を行う必要がある場合があります。主に、精神科医、神経内科医、耳鼻咽喉科医が関与します。
精神科医は、睡眠障害が精神的な要因から引き起こされている場合に対応します。例えば、不安やうつ病といった精神疾患が睡眠を妨げている場合などです。
神経内科医は、睡眠障害が脳や神経系の問題から生じている場合に対処します。特に、睡眠時無呼吸症候群などの神経系に起因する睡眠障害の診断や治療に携わります。
耳鼻咽喉科医は、いびきや睡眠時無呼吸症候群など、呼吸器系に関連する睡眠障害を診断、治療します。
病院によっては、睡眠に特化した「睡眠外来」を設けているところもあります。そこでは、これらの専門家が連携して診断や治療を行っています。
まとめ
本記事では、いびきと睡眠障害の相互関連とその対策について詳しく解説しました。いびきは単に騒音問題だけでなく、睡眠障害の一因となる可能性があります。具体的には、いびきは睡眠時無呼吸症状を引き起こす可能性があり、これが長期化すると心身の健康を脅かす可能性があります。
対策としては、まず適切な診断が重要です。睡眠障害の症状がある場合や、強いいびきをかく場合は、専門的な睡眠障害の病院で診察を受けることをおすすめします。そして、医師の指導のもとで適切な治療法を選択し、実施することが大切です。
以下の表は、いびきと睡眠障害の相互関連とその対策の概要をまとめたものです。
項目 | 詳細 |
---|---|
いびきと睡眠障害 | いびきは睡眠障害の一因となる可能性があります。 |
対策 | 適切な診断と治療が必要です。 |
病院での診療 | 睡眠障害の病院で専門医による診断と治療を受けることをおすすめします。 |
以上を踏まえ、自身の睡眠状況について見直し、必要があれば専門医の助けを求めることが重要です。
当サイトの監修医師について
当サイトは、医師資格を有する医師の監修のもと、サイト運営を行なっております。
大分大学医学部医学科卒業。医師として救急医療や在宅医療に従事し、マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。