アフターピルは緊急避妊のための薬です。妊娠を阻止するために用いますが、服用すれば確実に効果を得られるものではありません。薬剤の種類ごとに定められた服用時間を守らなかったり、副作用が原因で嘔吐してしまったりすれば失敗する可能性もあります。
本記事では、失敗する場合やそのようなケースでの対処法についても紹介します。
1. はじめに:アフターピルを服用しても妊娠の可能性はあるのか?
アフターピルは、避妊に失敗した場合の緊急避妊薬として知られています。望まない妊娠を防ぐために有効な手段ですが、100%避妊できるわけではありません。「アフターピルを飲んだから大丈夫」と安心するのは危険です。
下表の通り、アフターピルの失敗率は決してゼロではありません。アフターピルを服用しても妊娠する可能性があることを理解し、正しい知識を持って使用することが重要です。
避妊法 | 失敗率 |
---|---|
72時間用アフターピル(マドンナ、ノルレボなど) | 5~15% |
120時間用アフターピル(ウリプタル、ホセイ、エラ、エラワンなど) | 0.3~1.8% |
低用量ピル | 0.3% |
コンドーム | 2~15% |
2. アフターピルの種類と作用する仕組み
アフターピルには大きく分けて2つの種類があり、作用する仕組みが異なります。
種類 | 成分 | 薬剤の例 | 作用の仕組み |
---|---|---|---|
黄体ホルモン剤 | レボノゲストレル | マドンナ、ノルレボなど | 排卵を遅らせることで避妊効果を発揮する。 |
抗プロゲステロン剤 | ウリプリスタル酢酸エステル | ウリプタル、ホセイ、エラ、エラワンなど | 子宮内膜の状態変化や排卵抑制によって、受精卵の着床を阻害する。 |
黄体ホルモン剤であるノルレボ錠は、性行為から72時間以内に服用することで効果を発揮します。排卵を遅らせ、精子と卵子が出会うのを防いで妊娠を阻止します。すでに排卵が起こっているケースでは、効果は期待できません。
抗プロゲステロン剤であるエラワン錠は、性行為から120時間以内であれば効果が期待できる薬です。子宮内膜の状態を変化させ、受精卵が着床しにくくする作用があります。
薬の種類によって服用可能なタイミングや効果、副作用も異なるため、医師や薬剤師に相談の上、適切なアフターピルを選択することが重要です。
3. アフターピル服用後も妊娠する可能性がある理由
アフターピルを服用しても妊娠してしまう可能性がある原因としては次のようなことが挙げられます。
(1) 服用タイミング:性行為から72時間または120時間以内が有効
アフターピルは、性行為後できるだけ早く服用することが重要です。種類によって有効な服用期間が異なるため、経過時間によっては注意して選ぶ必要があります。
種類 | 有効期間 |
---|---|
レボノルゲストレル・ノルレボなど | 72時間以内 |
エラワン・エラなど | 120時間以内 |
72時間用アフターピルは、黄体ホルモン剤でレボノルゲストレルという成分を含む薬剤です。72時間を超えると、効果が著しく低下するため、できるだけ早く服用してください。
また、120時間用アフターピルは、ウリプリスタル酢酸エステルという成分を含む抗プロゲステロン剤です。黄体ホルモン剤よりも効果が期待できる時間が長いため、72時間を過ぎてしまった場合でも有効な可能性があります。
(2) 嘔吐:服用後3時間以内に嘔吐した場合、再服用が必要
アフターピルを服用後、3時間以内に嘔吐してしまった場合は、薬が十分に吸収されていない可能性があります。効果が十分に得られない可能性があります。再服用を検討しなければならない可能性もあるため、医師に相談してください。相談の際には、適切な指示を受けるためにも、薬の種類や嘔吐のタイミングを正確に伝えることが大切です。
(3) 体重:BMIが高い場合、効果が低下する可能性
BMIが高い方の場合、アフターピルの効果が低下する可能性があります。BMIとは「体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)」で計算できる数値のことです。
BMIが高く、肥満体質であるほど、代謝が早まるなどの理由で、アフターピルの有効成分が体内に十分に吸収されにくくなるといわれています。
具体的には、BMIが25以上の方は、避妊効果が低下する可能性があるという研究結果が報告されています。特に、BMIが30以上の高度肥満の方は、その傾向がより顕著になるとも言われており、注意が必要です。
もちろん、BMIが高いからといって、アフターピルの効果が全くないわけではありません。あくまで「効果が低下する可能性がある」というだけなので、医師の指示に従い、正しく服用すれば妊娠を阻止できる可能性は十分にあります。
(4) 薬の相互作用:特定の薬との併用で効果が低下する可能性
アフターピルの効果は、特定の薬との併用によって低下する可能性があります。これは、薬の影響によって、代謝に関係する酵素の働きが変化するためです。併用によりアフターピルの血中濃度が低下し、十分な避妊効果が得られない場合があります。
特に、以下の薬を服用している場合は注意が必要です。
薬の種類 | 薬剤名 | 影響 |
---|---|---|
抗てんかん薬 | フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタールなど | アフターピルの成分の分解が促進され、効果を低下させる可能性がある |
抗HIV薬 | リトナビル、エファビレンツなど | アフターピルの効果を低下させる |
セントジョーンズワート | ハーブティーやサプリメントに含まれる場合が多い | アフターピルの代謝に関与する酵素を誘導することで代謝を促進し、効果を低下させる |
抗生物質 | リファンピシンなど | アフターピルの効果を弱める |
これらの薬を服用している場合は、アフターピルを服用する前に医師または薬剤師に相談することが重要です。
(5)アフターピル服用前にすでに妊娠していた
アフターピルを服用した時点ですでに妊娠している可能性もあります。アフターピルは排卵を抑制することで妊娠を阻止するため、排卵後に服用してもあまり意味がないためです。性行為をしたのが排卵後であれば、その後アフターピルを服用しても意味がない可能性があります。
(6)アフターピル服用後に避妊をしなかった
アフターピルの効果は持続するものではありません。服用後も正しい方法で避妊しなければ妊娠するリスクはあります。コンドームの使用や低容量ピルの服用など、通常の避妊方法を実践するようにしましょう。次の生理が来るまでは特に注意が必要です。
4. アフターピル服用後の妊娠検査
アフターピルを服用しても、その効果は絶対ではありません。もし予定通りに生理が来ない場合は、以下のように対処しましょう。
(1) 生理が来ない場合:市販の妊娠検査薬で確認
生理が来ない場合は、妊娠の可能性があります。その際は、まず市販の妊娠検査薬を使用してみましょう。妊娠検査薬は、尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)というホルモンを検出することで妊娠の有無を判定します。
妊娠検査薬は、ドラッグストアや薬局などで購入できます。早期妊娠検査薬であれば、生理予定日当日から使用できるものもあります。ただし、検査時期が早すぎると正確な結果が得られない場合があるため、生理予定日1週間後を目安に検査するのが望ましいです。
項目 | 説明 |
---|---|
使用時期 | 生理予定日1週間後から検査可能 |
検査方法 | 尿を検査薬にかけ、数分待つ |
結果の判定 | 使用説明書をよく読んで、陽性か陰性かを確認 |
(2) 偽陰性の場合:1週間後に再検査
妊娠検査薬の検査結果が必ずしも正確とは限りません。特に、性行為から間もない時期に検査すると、体内のhCGホルモン濃度が低いため、実際には妊娠していても陰性反応が出てしまう「偽陰性」の可能性があります。
特に注意が必要なのは、アフターピル服用後に生理が来ない、またはいつもと違う出血(少量の出血、不正出血など)がある場合です。このような症状が見られる場合は、検査結果が陰性であっても、1週間後に再検査をする必要があります。
なぜ1週間後なのかというと、妊娠初期はhCGホルモンの分泌量が急速に増加するため、1週間後にはより正確な検査結果を得られる可能性が高まるからです。
(3) 妊娠検査薬で陽性反応が出た場合:速やかに産婦人科を受診
妊娠検査薬で陽性反応が出た場合は、妊娠している可能性が高いといえます。速やかに産婦人科を受診しましょう。自己判断せず、まずは医師の診察を受けてください。
また、産婦人科を受診する際は、以下のことを正確に伝えるようにしてください。
- 最終月経日
- 性行為のあった時期
- 服用したアフターピルの種類
- アフターピルを服用した日時
医師は、問診や検査を通して妊娠週数を確定し、今後の対応についてあなたと一緒に考えていきます。
5. アフターピル服用後の注意点
アフターピルを服用した後は次のことに注意しましょう。
(1) アフターピルは緊急避妊薬であり、通常の避妊法ではない
アフターピルは、避妊に失敗した時に緊急的に使用するお薬です。あくまで緊急避妊のための手段であり、通常の避妊法として使用することは適切ではありません。
アフターピルを通常の避妊法として使用することが適切ではない理由は、以下の通りです。
- 通常の避妊法(コンドーム、低用量ピルなど)と比べると避妊効果が低い
- 保険適用外のため、通常の避妊法と比較して費用が高額
避妊法 | 避妊成功率 | 副作用 | 費用 |
---|---|---|---|
アフターピル | 72〜99% | 吐き気、嘔吐、不正出血など | 1~1.5万円前後 |
低用量ピル | 99%以上 | 吐き気、頭痛、不正出血など | 数千円/月 |
コンドーム | 85〜98% | ほとんどなし | 数百円〜/個 |
上記の表からもわかるように、アフターピルは他の避妊法と比較して、避妊効果が低く、費用も高額です。緊急時以外には、低用量ピルやコンドームなど、より確実な避妊法を選択しましょう。
(2) 繰り返し服用すると、ホルモンバランスが乱れる可能性
アフターピルは緊急避妊のための手段であり、ホルモンバランスに影響を与える薬です。服用回数が増えるほど、その影響も大きくなる可能性があります。ホルモンバランスが乱れた結果、以下のような不調が起こるケースもあります。
- 生理不順:生理周期が変化したり、出血量が変化したりすることがある。
- 不正出血:生理以外の時期に出血することがある。
- 吐き気や頭痛:ホルモンバランスの変化によって現れることがある。
アフターピルを繰り返し服用することで、体に負担がかかる可能性があることを理解しておく必要があります。
(3) 服用後の性行為:次の生理が始まるまでは避妊具を使用
アフターピルを服用した後は、必ず通常の方法で避妊してください。アフターピルは排卵を遅らせる効果や着床を阻害する効果がありますが、その効果は持続しません。服用後に再び性行為を行うと、妊娠する可能性があります。以下のような通常の方法を実践するようにしましょう。
避妊具の種類 | 特徴 |
---|---|
コンドーム | 性感染症予防効果も高い |
低用量ピル | ホルモンバランスを整える効果も期待できる |
IUD(子宮内避妊器具) | 長期的な避妊効果 |
6. 妊娠が確定した場合の選択肢
アフターピルを服用しても妊娠してしまった場合、そのまま妊娠を継続するか、中絶するかという二つの選択肢が考えられます。ご自身の人生を大きく左右することでもあるため、パートナーともよく話し合い、慎重に検討しましょう。
(1) 妊娠継続
「せっかく授かったのだから」とそのまま妊娠を継続するのも一つの選択肢です。新しい家族の誕生は、ご自身はもちろん、パートナーや周りの方にとっても幸せな出来事でしょう。
しかし、子どもをもつことは想像以上に大変なことかもしれません。出産・育児には、経済的・精神的・身体的な負担が伴います。安易に結論を出さず、パートナーや家族とよく話し合い、慎重に決断しましょう。
妊娠継続を決めた場合は、速やかに産婦人科を受診し、妊婦健診を受けましょう。医師の指示に従い、健康管理に気を配りながら、出産に備えることが大切です。
また、妊娠・出産に関しては次のような様々な支援制度もあります。
- 母子健康手帳の交付
- 妊婦健診費用の助成
- 出産育児一時金
- 育児休業給付金
- 児童手当
各自治体によって様々な支援制度が用意されているため、積極的に活用するとよいでしょう。お住まいの自治体にどんな制度があるかは、担当窓口やインターネットで確認できます。
(2) 人工妊娠中絶
妊娠の継続が難しいと判断した場合、人工妊娠中絶という選択肢があります。人工妊娠中絶には手術を行う方法と、薬剤を服用する方法があります。
方法 | 概要 | 妊娠週数 |
---|---|---|
手術による方法 | 子宮内容物を吸引・掻爬する手術によって妊娠を中断する | (妊娠21週6日目まで) |
薬剤による方法 | 妊娠を維持するホルモンの働きを抑制する薬剤を服用することで、子宮内容物を排出させる | (妊娠9週まで) |
それぞれの方法には、メリット・デメリットがあり、母体への身体的・精神的負担も伴います。
特に、中絶手術は、母体保護法の規定により、妊娠22週未満まで認められています。妊娠週数が進むほど母体への負担も大きくなるため、手術を検討している場合は、できるだけ早く産婦人科を受診し、医師とよく相談することが大切です。
また、中絶にかかる費用は、妊娠週数や医療機関によって異なります。手術であれば10万円~20万円程度、薬剤による方法で10万円前後が目安です。経済的な理由で中絶費用が支払えない場合は、各自治体の相談窓口に相談してみましょう。出産育児一時金を利用できるなど、助成金を受けられる可能性があります。
7. まとめ:アフターピルは100%の避妊効果はないため、普段から適切な避妊を
アフターピルは緊急避妊のために用いられる薬ですが、100%妊娠を防ぐことはできません。また、性行為から時間が経つほど、避妊効果は低くなります。他にも、体質や薬の相互作用などによって効果が減少する場合もあります。アフターピルを服用しても、妊娠の可能性がゼロになるわけではないことを理解しておくことが重要です。
アフターピルはあくまでも緊急時の対応策であり、通常の避妊方法として使用すべきではありません。繰り返し服用すると、ホルモンバランスに影響を与える可能性があります。将来の妊娠を希望する方にとって、自身の健康を守るためにも、適切な避妊を心がけることが大切です。