監修医師
各務 康貴
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。
ED症状で悩んでいる方は、年代を問わずいらっしゃるものです。その原因は様々で、心理的なことである場合もあれば、身体的な要因が影響する場合、その両方が影響する場合もあります。症状を改善するには、正しく原因を把握し、適切な対処法を試みることが大切です。
本記事では、EDの原因や対処法について解説します。
EDとは
まずは、どんな症状があればEDといえるのかということや、有病率について解説します。
ED(勃起不全)の定義と症状
EDとは、「Erectile Dysfunction」の頭文字をとった言葉で、勃起障害のことを指します。具体的には、性的刺激があったにもかかわらず、十分な勃起が得られない、または勃起を維持できない状態を指します。
具体的な症状は以下の通りです。
・勃起が十分でない
・勃起が維持できない
・射精が早い(早漏)
・性的欲求が低下している
また、その程度は軽症から重症まで様々で、次のように分類されます。
<EDの重症度分類>
・軽症:時々EDの症状がある
・中等症:半数以上の性行為でEDの症状がある
・重症:ほとんどの性行為でEDの症状がある
このように、ED症状の現れ方は人それぞれ異なります。
日本人男性の有病率
日本人男性のEDの有病率は、次のように年齢によって大きく異なります。
年代 | ED有病率 |
---|---|
40代 | 約14% |
50代 | 約30% |
60代 | 約50% |
70代 | 約60%超 |
このように、加齢に伴いEDの有病率は高くなる傾向があります。特に 50代以降は3人に1人以上がEDに悩まされているという深刻な状況です。
また、EDは生活習慣病の一つともいわれており、糖尿病や高血圧症、肥満などを併発している人ほどEDのリスクが高くなることが分かっています。生活習慣病の有病者は、日本人の死亡者数の約6割を占めるといわれており、その男女差がないと仮定すれば、日本人男性の約6割がEDに関連するリスクを持っていると推計できるでしょう。
このように、日本人男性のEDの有病率は決して低くはありません。年齢や生活習慣次第で予防できる可能性もあり、日頃からの健康管理が重要となってきます。
EDの原因
EDの原因には大きく分けて4つあります。心因性ED、器質性ED、混合性ED、薬剤性EDです。
種類 | 原因 | 詳細 |
---|---|---|
心因性ED | 精神的要因(ストレス、不安など) | 年代別割合: 20代 70%、30代 60%、40代 40% |
器質性ED | 身体的要因(生活習慣病、加齢など) | 危険因子:喫煙、肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症 |
混合性ED | 心因性と器質性の両方の要因 | – |
薬剤性ED | 薬剤の副作用 | うつ病治療薬、降圧剤、抗がん剤など |
EDの原因は単一ではなく、様々な要素が関係しているため、原因を正確に特定し、適切な治療を受けることが重要です。
心因性ED
心因性EDとは、身体的な異常はないものの、ストレスや不安、うつ病などの精神的要因によって勃起不全が引き起こされる状態を指します。
日本人男性の年代別の心因性EDの割合は以下の通りです。
年代 | 心因性ED割合 |
---|---|
20代 | 70% |
30代 | 60% |
40代 | 50% |
50代以上 | 40% |
上表からわかるとおり、年齢が低いほど心因性EDの割合が高くなる傾向にあります。これは、若年層ほど性に対する不安や心理的プレッシャーを抱えやすいためと考えられています。ただし、20代のEDの有病率自体は5%程度と全体として低くはあります。
心因性EDは、ストレス解消や精神療法などで改善が期待できる一方で、放置すると慢性化し、器質性EDにつながるリスクもあります。自覚症状があれば、早期の対処が重要です。
器質性ED
器質性EDは、生活習慣病や加齢による身体的要因が原因で発症します。具体的な危険因子は以下のとおりです。
【器質性EDの主な危険因子】
・糖尿病
・高血圧症
・動脈硬化症
・前立腺肥大症/前立腺がん
・神経障害(脊髄損傷など)
・勃起不全治療薬の副作用
糖尿病や高血圧症、動脈硬化症などの生活習慣病が重症化すると、勃起に関わる血管や神経の障害が起こるために勃起不全になりやすくなります。また、加齢による性ホルモンの低下や前立腺の疾患や神経障害、一部の薬剤の副作用でも発症することがあります。
年齢を重ねるごとに危険因子を抱える割合が高くなるため、器質性EDの発症リスクも年々上がっていきます。
下表のように、40代で約10%だった有病率が、50代で約20%、60代で約50%、70代で約70%と加齢に伴い急増する傾向にあります。
年代 | ED有病率 |
---|---|
40代 | 10% |
50代 | 20% |
60代 | 50% |
70代 | 60% |
ほかに喫煙や過剰な飲酒などの生活習慣も危険因子に挙げられます。喫煙は血管を損傷し、飲酒は一時的に勃起を阻害する作用があるためです。他にも、脳血管障害、神経変性疾患、前立腺疾患などの疾患も危険因子となり得るでしょう。生活習慣の改善が何より重要ですが、上記のような基礎疾患がある場合は、医師による適切な治療が必須となります。
混合性ED
混合性EDとは、心因性と器質性の両方の要因が複雑に関与しているEDのことを指します。
例えば、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病があり、身体的な要因でEDが発症しやすい状況にあるものの、ストレスや不安などの精神的要因も重なることで、EDが引き起こされる場合などが該当します。
<混合性EDの例>
・糖尿病
・ストレス
・高血圧症
・不安
・肥満
・うつ病
・動脈硬化
・対人関係の問題
このように、混合性EDでは単一の原因ではなく、複数の要因が組み合わさって勃起不全が生じているのが特徴です。そのため、身体と心の両面からのアプローチが求められ、生活習慣の改善と並行して、カウンセリングなどの精神的ケアも重要になってきます。
薬剤性ED
薬剤性EDとは、服用している薬の副作用によって勃起不全が引き起こされる状態を指します。
主な原因薬剤を以下の表に示します。
薬剤の種類 | 具体例 |
---|---|
抗がん剤 | シスプラチン、シクロホスファミド |
高血圧治療薬 | β遮断薬、利尿薬 |
精神疾患治療薬 | 三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬剤 |
その他 | コルチゾール、メトクロプラミド、シメチジン |
これらの薬剤の服用中に勃起不全が認められた場合、まずは主治医に相談し、原因薬剤の変更や休薬を検討することが重要です。一方、抗がん剤などの重要薬剤の場合は、投与量の調整や別の治療法の併用などの対応が必要となります。
ED自体は重大な疾患ではありませんが、生活の質を大きく損なう可能性があります。また、薬剤性EDは医師の適切な判断によってある程度予防や対処が可能です。ただし、薬剤の服用を自己判断でやめるなど、勝手なことはしないよう注意しましょう。
EDの自己対処法
EDの症状が軽度の場合は、生活習慣の改善など、自分で対処することで症状の改善が望める場合もあるでしょう。具体的には、次のようなことを試みるのがおすすめです。
- 適度な運動:血行促進による勃起機能改善
- 禁煙:血管の保護による改善
- 食生活の改善:肥満予防、脂質・アルコールコントロール
- パートナーとのコミュニケーション
このように、生活リズムや食生活、パートナーとの関係性を整えることで、EDの改善が期待できる場合があります。しかし、自己対処法で改善が見られない場合は、専門医の診察を受けることをおすすめします
適度な運動
EDの改善や予防に有効なのが、適度な運動です。運動は全身の血行を促進し、性機能の向上に役立ちます。特に有酸素運動が効果的でしょう。
具体的には、週に3~4回程度、30分以上の軽い走行やウォーキング、水泳、自転車などを行うことをおすすめします。運動強度は、休憩なしで会話ができる程度が目安です。
一方、過度な運動は体力の消耗を招き、かえってEDを悪化させる恐れがあります。無理のない範囲で続けられることが大切です。
また、次の表のように、特定の運動がEDに効果的であるとの報告もあります。
運動種目 | ED改善効果 |
---|---|
ウォーキング | ◎ |
自転車 | ◎ |
ランニング | ○ |
水泳 | ○ |
ヨガ | ○ |
このように、EDには適度な有酸素運動を心がけることが重要です。運動を習慣化することで、EDの改善や予防が期待できます。
禁煙
タバコの有害物質には勃起不全(ED)を引き起こす可能性があります。喫煙者は非喫煙者に比べ、EDのリスクが約2倍高いことも分かっています。
タバコに含まれるニコチンは一時的に血管を収縮させます。そのため、陰茎への血流が悪くなり勃起不全につながるのです。また、一酸化炭素などの有害物質が動脈硬化を進行させ、EDの原因となる血管障害を引き起こします。
喫煙量と勃起不全の関係を示した研究結果があります。
1日の喫煙本数 | ED発症リスク |
---|---|
非喫煙者 | 1(基準値) |
10本未満 | 1.3倍 |
10-20本 | 1.5倍 |
20本以上 | 1.6倍 |
このように、禁煙することで、血管機能の改善が期待でき、EDの改善にも効果が期待できます。しかし、長年の喫煙習慣で血管が損傷を受けている場合は、EDが完治するまでに時間がかかるかもしれません。
喫煙による健康被害を防ぐためにも、禁煙は重要なステップとなります。
食生活の見直し
EDの改善や予防には、食生活の見直しも重要です。特に、動脈硬化の進行を抑え血行を改善するためにも、以下のような食事が推奨されます。
・野菜や果物を十分に摂取する
野菜や果物にはビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。これらの栄養素は、血管の健康維持に役立ちます。
・良質な脂質を適量摂取する
良質な脂質を含む食品としては、アボカド、オリーブオイル、アーモンド、サーモンなどがあります。中性脂肪を下げ、善玉コレステロール(HDL)を増やす働きがあります。
・食物繊維の多い穀物を選ぶ
食物繊維の多い穀物は、コレステロール値の改善に効果があります。例えば、オートミールや全粒粉パンなどを選びましょう。
一方、次のような食品は避けるか控えめにしましょう。
・動物性の脂肪が多い食品(バター、ベーコンなど)
・塩分の多い食品(加工食品、インスタント食品など)
・砂糖が多く含まれる菓子パン
など
バランスの良い食事を心がけることで、EDの改善や予防に役立つでしょう。
パートナーとのコミュニケーション
EDは本人だけでなく、パートナーにも大きな影響を及ぼします。お互いに心を開いて話し合うことが大切です。
パートナーに対しても、EDの症状やストレス、不安な気持ちなどを素直に伝えましょう。パートナーも寄り添い、理解を示すことが重要です。
一方で、EDに対する思い込みや過剰な心配は症状を悪化させる可能性があります。 冷静に、前向きな気持ちを持つよう心がけましょう。
例えば、次のようなコミュニケーションが有効です。
不適切な発言例 | 適切な発言例 |
---|---|
「もうダメだ、俺はEDだ」 | 「今日は上手くいかなかったね」 |
「私が魅力がないからだ」 | 「一緒に乗り越えていこう」 |
EDへの理解を深め、お互いを思いやる気持ちを忘れずにいることが大切です。
EDの治療法
EDは適切な治療により改善が期待できる病態です。しかし、自分で判断して治療を行うのではなく、専門の医師に相談することが大切です。
医師は問診や検査で原因を特定し、最適な治療法を提案してくれます。主な治療法としては、ED治療薬や器具を用いた治療、心理療法などがあります。自己判断せずに、専門医に相談することが重要です。
専門クリニックでの治療が推奨
EDの治療には、専門のクリニックを受診することが推奨されます。専門クリニックでは、原因を正確に特定した上で、適切な治療法を提案してくれます。
器具を用いた治療法や心理療法なども、症状や原因に合わせて専門家が提案してくれるでしょう。
専門クリニックでは、原因の特定から適切な治療法の選択まで、総合的なサポートを受けられるのが大きなメリットです。
ED治療薬
EDの治療薬には、シルデナフィルやタダラフィル、バルデナフィルといったPDE5阻害薬があります。これらは勃起を助ける作用があり、EDの根本的な治療ではありませんが、症状を改善する目的で処方されます。
<PDE5阻害薬の種類と効果>
薬剤名 | 効果持続時間 | 備考 |
---|---|---|
シルデナフィル | 4~5時間 | ジェネリック医薬品あり |
タダラフィル | 36時間 | ジェネリック医薬品なし |
バルデナフィル | 8~10時間 | ジェネリック医薬品なし |
このように、PDE5阻害薬には効果の持続時間が異なるため、患者さんの生活スタイルに合わせて使い分けることができます。ただし、一定の副作用やリスクがあるため、医師の診断を受けて適切に服用する必要があります。
ジェネリック医薬品について
ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れた後に発売される後発医薬品です。主な有効成分は先発品と同一ですが、価格が大幅に安くなっています。
ED治療薬には、ジェネリック医薬品があり、先発品に比べてより安価で入手できます。
先発品と同等の安全性と有効性が認められた上で承認されているので、安心して使用できます。ただし、個人差があり、先発品の方が効きやすい場合もあるので、医師に相談しながら使用することが重要です。
心理療法
心因性EDの場合、心理療法は有効な治療法のひとつです。
心理療法では、カウンセリングを通して患者さんの不安やストレスの要因を探り、それらを除去・軽減することで、EDの改善を目指します。
具体的なアプローチとしては、以下のようなものがあげられます。
・認知行動療法
ネガティブな思考パターンを修正し、EDに対する不安を和らげる
・システム療法
パートナーを含めたカウンセリングで、夫婦関係の問題を改善する
・マインドフルネス
瞑想などで心を整え、EDに対するプレッシャーから解放される
・自己暗示療法
自分に肯定的な言葉をかけ続け、EDに対する自尊心を取り戻す
このように、心理療法は患者さん一人ひとりに合わせて様々なアプローチが可能です。
EDの原因が複合的な場合は、薬物療法などの他の治療と併せて行うことで、より高い効果が期待できます。
ED治療の費用
EDの治療費用は、受診する医療機関や治療内容により大きく異なります。一般的な目安は以下のとおりです。
■ED治療薬の一例
薬品名 | 費用(1錠) |
---|---|
バイアグラ | 300円前後 |
シアリス | 600円前後 |
このように、ED治療における費用負担は個人差が大きいですが、長期的な治療が必要な場合は高額になる可能性があるため、事前に医療費を確認しておくとよいでしょう。
ED予防のポイント
ED予防の第一歩は、生活習慣の見直しです。 下記の点に気をつけることが大切です。
・適度な運動
運動不足は勃起不全のリスクを高めます。 有酸素運動を週3回以上、1回30分程度行うことをおすすめします。
・禁煙
喫煙は血管を傷め、勃起不全の原因となります。 禁煙を心がけましょう。
・適度な飲酒
過度の飲酒は一時的に勃起不全を引き起こします。 アルコール摂取は控えめにしましょう。
・バランスの良い食事
野菜や果物を中心とした食生活が望ましいです。 脂質の過剰摂取は避けましょう。
・ストレス対策
ストレスは心身の健康に悪影響を及ぼします。 趣味やスポーツなどでストレス発散するよう心がけましょう。
このように日頃の生活習慣を見直すことで、ED予防につながります。
まとめ
EDは男性にとって深刻な問題ですが、適切な対処をすれば改善が期待できます。
心因性と器質性の両面から原因を探り、生活習慣の改善とパートナーとのコミュニケーションで自己対処を試みましょう。 それでも改善が見られない場合は、専門クリニックで以下の治療を受けることをおすすめします。
・ED治療薬
・器具を用いた治療
・心理療法
治療には費用がかかりますが、ED対策は男性の健康にも大きく関わるため、保険適用外の自費でも前向きに取り組むことが重要です。
さらに、適度な運動や禁煙、食生活の見直しなどの生活習慣改善で、EDの予防にも努めましょう。
EDは決して恥ずかしい病気ではありません。症状に早期から気づき、勇気を持って適切な対処を取ることが何より大切なのです。
当サイトの監修医師について
当サイトは、医師資格を有する医師の監修のもと、サイト運営を行なっております。
大分大学医学部医学科卒業。医師として救急医療や在宅医療に従事し、マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。
医療現場で予防の重要性や予防に取り組んでもらうことの難しさを痛感。美容という切り口で本質的な予防につなげる入口として、口腔という臓器に興味を持つ。口腔環境が多くの臓器に影響を及ぼし、多くの病気に繋がってしまうというポイントから予防について新聞・テレビ・WEBメディア等で情報を発信している。